賃金支払の5原則
労働基準法では派遣スタッフの生活の安定を図るために、派遣元が派遣スタッフに賃金を支払う上での5つの約束事を提示しています。
- 通貨で払わなければならない
会社で製造している商品などのモノで払うのではなく、日本では円 ( 紙幣または硬貨 ) で払う必要がありますが、一部例外もあります。
例外…労働協約で通勤定期券などを現物支給する旨を定めた場合
- 直接払わなければならない
派遣スタッフ本人に渡さなければなりません。なお、派遣スタッフ本人の自由な意思にもとづく同意があれば ( むりやり同意させてはダメ ) 、本人名義の銀行口座へ振り込むことは可能です。ただし、給料日に払い出し可能な状態にしておかなくてはなりません。
- 全額払わなければならない
働いた分のお給料をすべて払わなければならず、ピンハネを禁止しています。ただし、以下の例外に関してはお給料から控除できます。
例外A…税金、厚生年金保険料、健康保険料、雇用保険料など
例外B…過半数代表者との書面による協定 ( 労使協定 ) にもとづくもの
- 毎月払わなければならない
少なくとも毎月1回以上払わなければならず、長期間のタダ働きを禁止しています。
例外…ボーナスなど1ヶ月を超える期間ごとに払うもの
- 一定の期日に払わなければならない
20日や末日などのように給料日をはっきりさせなくてはなりません。
最低賃金とは
最低賃金法では賃金が安くて生活ができない労働者がでることを防ぐため、最低水準の賃金が定められています。最低賃金には産業別最低賃金と地域別最低賃金があり、毎年改定されます。派遣元は労働者である派遣スタッフに対して最低賃金以上の賃金を支払わなければならず、最低賃金の概要を常に派遣スタッフの誰もが見やすい場所に掲示するなどして知らせておかなければなりません。
例として代表的な地域別最低賃金を以下にあげておきます。なお、割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などは最低賃金に含まれません。他の地域別最低賃金、産業別最低賃金については
厚生労働省−最低賃金ホームページをご覧ください。
(発効年月日06年9月30日以降)
代表的な地域別最低賃金
都道府県 |
金額 |
北海道 |
644円 |
宮城 |
628円 |
埼玉 |
687円 |
神奈川 |
717円 |
東京 |
719円 |
新潟 |
648円 |
長野 |
655円 |
静岡 |
682円 |
愛知 |
694円 |
大阪 |
712円 |
広島 |
654円 |
愛媛 |
616円 |
福岡 |
652円 |
沖縄 |
610円 |
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派遣の時給
派遣の時給は以下のような数式で求められます。派遣料金 ( 派遣先から派遣元へ支払われる代金 ) は、だいたい派遣スタッフのお給料80%+派遣元の経費・営業利益20%で決定されるといわれています。
当然と言えば当然ですが、数式を見ておわかりのとおり、派遣料金のダンピングが派遣スタッフの時給の減額につながります。この派遣スタッフの時給から源泉所得税、雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料、交通費が差し引かれます。住民税や、満40歳以上の派遣スタッフには介護保険料もあります。
法定労働時間と残業
労働基準法では1日の労働時間の上限は8時間、1週間の労働時間の上限は40時間 ( 一部44時間の例外アリ ) と定められており ( 9条 )、 これを法定労働時間といいます。一般的には1週間の労働時間が35時間未満の労働者をパートタイマーと呼んでいます。
※1週44時間の例外は、商業、映画演劇業、保健衛生業、接客娯楽業を営む正社員とパートを合わせた従業員が10人未満の事業所に適用されます。
残業とは
使用者が業務繁忙期に労働時間の延長を行うケースは少なくありませんが、これがいわゆる残業で、このうち1日8時間 ( 法定労働時間 ) を超える労働を時間外労働といいます。時間外労働を命じる就業規則がある場合は別として、原則的には派遣元は派遣スタッフに残業をさせないようにしなければなりません。しかし、どうしてもその必要があるときは、時間外労働協定
( 36協定、サブロク協定 ) を結ばなければなりません。個々の派遣スタッフに対しても、時間外労働として労働条件通知書や就業条件明示書で明示しておかなければなりません。。
残業代と割増賃金
派遣スタッフに時間外労働をさせた場合は、8時間を超えた部分に対して通常の賃金に上乗せされる割増賃金 ( 残業代 ) が発生します。 ( 変形労働時間制を採用している場合はその日の特定された労働時間を超えた場合に発生します。) 賃金の割増率は以下のとおりです。
労働の種類 |
割増率 |
時給1000円の場合の
割増後の賃金 |
時間外労働
( 法定外残業 ) |
25%以上 |
時給1250円以上 |
法定休日労働 |
35%以上 |
時給1350円以上 |
深夜労働 |
25%以上 |
時給1250円以上 |
時間外+深夜労働 |
50%以上 |
時給1500円以上 |
法定休日+深夜労働 |
60%以上 |
時給1600円以上 |
法定休日労働とは法定休日 ( 事業主は少なくとも1週間に1日、または4週間に4日の休日を与えなければならない ) に労働することをいいます。 深夜労働とは午後10時から午前5時まで
( 午後11時から午前6時までの例外アリ ) の間に労働することをいいます。休日労働で時間外労働をする場合は、35%以上+25%以上=50%以上と思われがちですが、これは35%以上の割増賃金を支払うことで差し支えないとされています。
基本的には、1日4時間働く派遣スタッフが5時間働いた場合、派遣元は5時間分の賃金を支払わなければならないのは当然ですが、労働時間が8時間以内
( 法定労働時間内 ) なので、割増賃金を支払う必要はありません。ただ、労働が深夜に及ぶ場合は深夜労働の手当 ( 25%以上 ) が必要になります。労働契約書や労働条件通知書などに所定労働時間を超えた場合に割増賃金
( 残業代 ) を支払うという定めがある場合は、法定労働時間 ( 8時間 ) 以内であっても支払う義務が生じます。また、不運なことに時間外労働したにもかかわらず、その分の賃金を払ってもらえなかった場合は過去2年分までなら、さかのぼって請求することができます。
派遣元が派遣スタッフに1日の労働時間の上限である8時間を超えて労働させるとき、または休日労働をさせるときは、時間外労働協定 ( 休日労働協定
) を結ばなくてはなりません。時間外労働協定 ( 休日労働協定 ) とは派遣元と派遣スタッフが加入する労働組合 、または派遣スタッフの過半数代表者との間の書面による協定で、これを労働基準監督署へ届け出なければなりません。
協定内容は@時間外労働 ( 休日労働 ) が必要な具体的な理由、A仕事内容、B派遣スタッフの人数、C1日や1週間、1ヵ月、1年などの延長時間です。派遣元は時間外労働協定を結べば派遣スタッフを何時間でも労働させることができるわけではなく、下表のように延長時間の上限基準が定められているので注意が必要です。( 下表は一般労働者の場合に適用されます。期間が3ヶ月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者は別の上限時間が定められています。) さらに、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する派遣スタッフや家族介護をする派遣スタッフが請求した場合は1ヵ月につき24時間、1年で150時間を超える時間外労働をさせてはならないとされています。また、この協定の有効期間を定める場合は3年を超えてはなりません。 ( 労働協約による場合は有効期間を定める必要はありません )
延長する期間 |
延長の上限時間 |
1週間 |
15時間 |
2週間 |
27時間 |
4週間 |
43時間 |
1ヵ月 |
45時間 |
2ヶ月 |
81時間 |
3ヵ月 |
120時間 |
1年間 |
360時間 |
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休日労働とは
就業規則で日曜日と祝日を休日とした場合、日曜日は法定休日ですが、祝日は法定外休日となります。法定外休日なので派遣元はこの祝日に関して36協定がなくても、就業規則に法定外休日労働の規定があれば労働者に労働させることができ、割増賃金も発生しません。 ( 法定休日に労働させる場合は36協定が必要となります。) 完全週休2日制も法定休日と法定外休日からなるので、そのうち1日働いたとしても法定外休日労働には割増賃金は発生しません。法定休日に労働をする場合、その労働日に変更された休日の代わりに、別の労働日を休日に変更することがあります。これには、休日の振り替えと代休の2つの方法があります。
労災保険
労災保険については、労働者の加入条件はありません。労災保険の適用事業に使用される労働者で、賃金を支払われる者が当然に適用を受けるからです。派遣会社は労災保険の強制適用事業なので、派遣スタッフは仕事中や通勤途中の事故でケガをしたような場合は、そのケガと仕事の因果関係が認められれば保険の給付を受けることができます。
雇用保険の加入条件
雇用保険は、派遣元に雇用されることから、派遣元で加入します。派遣元はスタッフの雇用保険の加入について、派遣先へ通知する義務を負っています。雇用保険の加入条件は以下のとおりで、AとBの両方に当てはまれば加入することになります。
A…@またはAのいずれかに当てはまり、派遣として働いている。
@同じ派遣元に1年以上引き続き雇用される見込みがある。
A@以外の場合で派遣元での雇用が1年未満であっても、以下の例に当てはまる状態 ( 短期の雇用を数回繰り返し、反復継続する場合 ) が1年以上続く見込みがある。
イ…2ヶ月程度以上の派遣期間と1ヵ月程度以内の待機期間を繰り返している。
ロ…1ヶ月以内の派遣期間と数日以内の待機期間を繰り返している。
B…1週間の所定労働時間が20時間以上である。
健康保険と厚生年金保険 ( =社会保険 ) の加入条件
社会保険への加入条件は以下のとおりで、AとBの両方に当てはまれば加入することになります。
A…2カ月を超えて派遣元に雇用されている。
2ヶ月以内の雇用期間を定めていても、更新によって雇用期間が2カ月を超えた場合は被保険者となります。
B…1日または1週間の労働時間と1ヶ月の労働日数が正社員の4分の3以上ある。
登録型派遣スタッフの場合は、派遣先の正社員と比較して判断することになります。
派遣期間と派遣期間の間の待機期間中の場合は、原則としてスタッフ自身が健康保険の任意継続をするか、国民健康保険に加入し、国民年金の1号または3号被保険者になります。ただし、待機期間が1ヵ月以内で、次の仕事も同じ派遣元からの紹介であることが見込まれるときは、派遣期間中の被保険者資格を継続することができます。この条件によって被保険者資格を継続していたにもかかわらず、実際には待機期間が1ヵ月を超えるとわかった場合はそのわかった日、待機期間が現に1ヶ月を超えた場合はその日のどちらか早い日が被保険者の資格喪失日となります。
派遣スタッフの健康保険については、「人材派遣健康保険組合」という、派遣スタッフの就労状況に配慮した健保組合があります。略して「はけんけんぽ」と呼ばれていますが、はけんけんぽに加入すると、健康保険の任意継続で特例措置を受けることができます。
派遣健保
派遣健保とは、人材派遣健康保険組合の略称で、短期で断続的な特殊な雇用形態である派遣スタッフのために設立された健康保険組合です。任意継続制度では政管健保や一般の健康保険組合にはない特例措置も設けられています。
退職とは労働者が会社をやめることで、契約期間中は基本的に退職することはできません。民法627条では退職の申し出から2週間経てば退職できると定めており、正当な理由はなくてもかまいません。しかし、派遣契約の更新を希望しない場合は、引継ぎのスタッフの確保などに時間を要するため、余裕を持って派遣元に連絡をしておいたほうが良いでしょう。 ちなみに派遣契約の終了に伴う退職を自然退職といい、あらかじめ労働契約書や就業規則などで定められた契約期間や休職期間の満了、定年、死亡によって自動的に退職することを指します。
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